混血カクテル

 

生きるということは、何度も開く傷口をそのたびにやさしくつなぎ合わせることだ。奇跡は時々呪いになる。

 

      呼吸も浅いまま夏と別れ、秋を待たずに冬がきた。色を失くした世界で、君のための歌を、君じゃない誰かのために歌った。冬の空気はやさしいが、寄り添ってはくれない。僕は試されている。壊れた蛍光灯の下でページをめくる。知っているはずなのに知らない言葉。

まだ空気の生ぬるい9月、由比ヶ浜で、知らない人が灯す花火を見ていた。そこは水平線も見えない真っ暗な夜の底で、潮の香りに目眩がした。波の音が轟々と響いて、べたつく髪が頰にまとわりついて、缶チューハイじゃすこしも酔えなくて、たったひとりで小さく呻いた。 結局、「変わったね」という言葉が僕を変えていたのだ。変化は必ずしも進化じゃない。自分の棄てたものさえ忘れてしまう僕だから、君が笑って言った「相変わらずだね」の一言で、相変わらずな自分に戻ってしまう、こんなに簡単に。

知らないふりをすることだけが僕の唯一の特技だった。 浅い思い遣りなんて、猫の餌にもならない。

 

       嘘つきに出会った。彼は星であり、旋風であり、南国のにぎやかな鳥であり、生まれたばかりの子猫であり、はたまた人間であるのだ。  

彼にとって海は見つめるもので、道は佇むもので、明日は待つもので、そんな彼の嘘は僕らにとっての現実だった。それは深夜の駐車場で自販機の灯りを頼りにキーを探すみたいに、不毛で、もどかしくて、やわらかい。あの小さな国では、それを優しさと呼んでいた。

評価や視線が苦手なのは昔のままで、いつだって怯えているし、強くもやさしくも賢くもなれていない。きっと愛し尽くす前に冬は終わるだろう。
    春が嫌いな、根暗で独善者の僕でも、誰かのばらばらになった心の破片を探せるだろうか?